「一生懸命仕事して稼いで利益を出し、役員報酬や給与が増えたのに、なぜこんなに税金を払わなければいけないのか・・・」と多くの方がお考えになられていることと思います。納税は国民の義務であり、様々な行政サービスを無償あるいは安価で受けられるのは、我々がその国民の義務を果たしているからなのですが、もう少し何とかならないかとお思いではないでしょうか。

 今回は、今までの様々なクライアントとの話の中で提案すると意外にも知らない人が多かった、比較的簡単な手続きで効果の大きな税制優遇を受けられる方法をメリット・デメリットと共にご紹介したいと思います。

 

① 法人経営者・個人事業主向け 法人税・所得税の税制優遇や損失補てんにもなる倒産防止共済

 倒産防止共済とは、中小企業基盤整備機構という独立行政法人が行っている共済制度です。
 業種によって基準は異なりますが、資本金または従業員数が基準を満たしていれば加入でき(加入資格の詳細は中小企業基盤整備機構のHPでご確認ください)、掛金の全額が損金となる上、後述する一定の基準を満たしていれば掛金の全額が返還されます。以下でもう少し詳しく解説していきます。

 制度本来の趣旨は、回収困難となった売掛金債権等が発生した時などに無担保、無保証人で貸付をしてもらえること等ですが、この貸付制度を利用してしまうと、解約時に受け取れる返還額から積み立てた金額の10分の1を減額されてしまいます。金利10%と同じような意味合いとなってしまうため、余程のことがない限りあまりこの制度を利用することはお勧めできません。また、上記以外でも一時貸付という制度があるのですが、こちらも金利(年0.9%)が発生します。

 申し込みは商工会や金融機関等で行っており、掛金は月額最低5,000円から5,000円刻みで最大20万円まで設定でき、月払のほかに年払(制度内では前納といいます)も可能です。途中で金額や支払方法を変更することも可能なので、決算前に金額の変更や年払に変更することで決算対策が可能となります。ただし、積立金には上限があり、最大800万円までしか掛金を納めることが出来ませんので、半永久的に経費にできるわけではありません。

 また、掛金を12カ月以上納めていれば解約手当金を受け取ることができますが、40カ月以上納めていないと掛金の全額を受け取ることができません。受け取った解約手当金は、全額雑収入となりますので、利益を計上しているときに解約してしまうと、法人税・所得税が課税されるので注意が必要です。損失を計上してしまいそうな時に、それを補てんする目的等で解約することをお勧めします。

 最後に個人事業で加入をご検討されている方には絶対に見落として欲しくないのですが、事業所得以外の収入に対してはこの掛金は必要経費にはなりません(加入はできます)ので特にご注意いただきたいと思います。

 

② 法人役員・個人事業主向け 所得税の優遇が大きく将来の貯蓄ができる小規模企業共済

 小規模企業共済も倒産防止共済と同じく中小企業基盤整備機構が提供している共済制度です。経営者にも退職金をという趣旨で国が作った制度であり、掛金の全額が所得控除の対象となります。また、将来受け取れる共済金は受け取り方法も一括か分割のどちらかと、一括・分割併用の3種類から選択ができます。

 加入要件は、法人の役員、個人事業主、個人事業の共同経営者で業種により異なりますが、従業員数の基準を満たしていないと加入できませんので、事業規模が大きくなる前に加入を検討する必要があります(一般のサラリーマンは加入できません)。特に個人事業主の方はよく加入を検討してほしいのですが、個人事業主本人及びその家族に対して退職金を支給しても事業所得の経費になりません。しかしこの制度や後述する③を利用すれば、受け取り方法によっては退職金と同様の扱いを受けることができます

 申し込みは上記同様、商工会や金融機関等で行っており、掛金は月額最低1,000円から500円刻みで最大70,000円まで設定でき、月払、半年払、年払が可能です。途中で金額や支払方法を変更することも可能です。

 そして最大のメリットは掛金全額が所得控除となることです。例えば所得税率が20%(復興特別所得税は除いて考えております)の人が年間30万円掛金を支払った場合ですと、

30万円×(所得税20%+住民税10%)=9万円

節税することができ、所得税の税率が高い人ほどその効果は大きいということになります。

 また、解約時の受け取れる共済金は解約時の条件により異なりますが、最大120%程度戻ってきます(詳細は中小企業基盤整備機構のHPをご参照下さい)。また、役員の退任や事業の廃止により、一括で共済金をお受け取りになると、退職金として扱われます。当然、所得税等の税負担は避けられないのですが、退職所得は給与所得や事業所得よりも所得控除額多く、また税負担が他の所得より優遇されているため、一括と分割の併用を選択して一括部分は退職所得の控除の範囲内で受け取り、残りを分割で受け取るなどして、極力税負担を軽減するなどの調整も可能となります。分割で受け取る場合は退職所得ではなく、公的年金等と同様雑所得となります。

 分割で受け取ることを選択された場合、年6回、奇数月に支給されるため、公的年金が年6回、偶数月に支給されるので、老後の生活費を安定的に受給することも可能になります。

 ここまでメリットばかりを述べてきましたが、デメリットが全くないわけではありません。役員の退任や事業廃止をしないまま共済金を受け取った場合は、任意解約という扱いになります。まとまった資金が必要な時や、経営状態が思わしくない時などの補てんなどでの苦渋の選択だとは思いますが、このケースですと受け取れる金額が掛金以下、いわゆる元本割れとなります。

 また、65歳未満の方が任意解約をした場合、所得税の面でも退職所得とならず一時所得となり、受け取った金額から50万円を控除して2分の1した金額に所得税等が課税されることとなり、税負担は非常に大きなものになりますので注意が必要です。

 

③ サラリーマン・個人事業主向け 所得税の優遇が大きく将来の貯蓄ができる個人型確定拠出年金

 個人型確定拠出年金は公的年金(国民年金、厚生年金)以外の私的な年金制度です。掛金の全額が所得控除の対象になります。受け取り方法も一時金、年金、併用と選択ができることから先述した小規模事業共済に非常に似ています

 今までも勤務先が厚生年金の加入事業者でない、企業年金がない場合や自営業者の方は加入ができたのですが、認知度は低いものでした。しかし2017年1月から拡充し、企業年金等がない場合のサラリーマンや自営業者だけでなく、公務員や専業主婦も加入ができることになり企業型と併せて年金運用できるようになり認知度が徐々に上がってきています(但し、国民年金保険料の免除を受けている方、農業者年金に加入している方は加入できません)。

 掛金は月額最低5,000円から1,000円刻みで最大68,000円まで設定でき(職業や勤務先の状況により掛金の上限が変わりますのでご注意ください)、年間1回掛金の変更が可能です。
 申し込みは自身で決めた金融機関等で行い、毎月掛け金を積み立てていき、運用していきます。運用して得た収益に対しては、株式投資等のように所得税を課税されることはありません

 ただし、この商品はデメリットも先に述べた他の2つよりも多くあります。まず、様々な運用商品の多くは元本保証のないものであり、その中からご自身で選択して運用していきますので、当然損することもあります。また、取り扱い金融機関、運用商品ごとに手数料が発生し、金額も皆異なるためどれが良いのか正直悩んでしまいます。そして最大のデメリットは、原則60歳以降でないと受け取ることができない(換金性が乏しい)ので、裏を返せばとても貯蓄性が高いとも言えますが、途中で資金が必要になっても解約することはできません。

 ご紹介した3つは全て、掛金が全額、所得控除の対象または損金になるということですから、個人の方は掛金に対して最低でも年利15%(所得税5%+住民税10%)、最大55%(所得税45%+住民税10%)、法人の場合、約30%(法人税の実効税率)の運用益が発生するのと同じような意味合いになります。また、少しわかりにくいとは思いますが、個人の方でご家庭に小さなお子様がいて保育園等に預けている方で、住民税の所得割で利用料等が決まっているような方は、上記の掛金を支払うことにより、その保育園等の利用料が減額することもあるかと思います。
 さらに、受け取れる金額は100%以上となるケースが多いということで、非常に魅力的なものに映っていると思います。

 しかし、そもそも税金を納税していない、あるいは納税額が少ない方は、節税効果よりも家計を圧迫することのほうが大きくなってしまいます。また、前述した通りそれぞれにデメリットは少なからずある上、誰も未来はわからないわけですから、将来ご自身の身に降りかかった事態によっては、想定外なデメリットを享受してしまうような状況に陥る可能性もございます。

 メリットに目が眩み、支払能力以上の掛金をお支払いすることのないよう、ご自身の収入、家庭の状況等を見据えた上で、無理のない範囲でご自身の将来のためにご紹介したものを運用していただければと思っております。

 どこかのCMではないですが、ご利用は計画的に・・・